下ノ廊下へ。
黒部峡谷をぐんぐんと下る、全長約30kmもの断崖絶壁ロングルート。
去年は、ついに開通しなかったので、2年越しの夢の実現。
とはいえ、ビビりのあたしには、歩き通せるのか、
どきどきとわくわくのせめぎあい…
今年の山の上の紅葉は、渋かったので、あまり期待していなかったのだけど、
出発地の扇沢へ向かう車内で見たのは、色鮮やかな紅葉。
下ノ廊下、期待できるかも…!!!
と、喜び勇んで、いざ出発。
トロリーバスで黒部ダムへ向かい、
歩き出ししばらくは、なんてことない登山道。
深い谷に、朝の光が届いたのは、だいぶ経ってから。
見上げると、秋の色を纏って染まる紅葉と青空。
文句のつけようのない紅葉と快晴に、
ずっと待ち望んだ甲斐があったねー。としみじみ。
やがて道は、岩をくりぬいて作られた、断崖絶壁ルートへ。
ねぇ、そんなことしてたら落ちちゃうよー!
ふざけてポーズをとる友は全然平気な顔で、
写真を撮るあたしはへっぴり腰。
スリングでチェストハーネスを作って、
怖いところは徹底的に確保しながら歩く。
写真を撮る時にも大活躍。
ビビりはビビリなりに、念を入れるもの。
ひたすら、断崖絶壁の道を。
高いところは、川との落差は100mほどもあるのだそう。
あたしたちのちっちゃさが、際立つほどの、雄大な景色。
足が竦んで歩けなかったらどうしよう…
なんて不安は、壮大な景観に圧倒されて、吹っ飛んだ。
高巻きの梯子や、ささやかな渡渉や、沢からのロープを使った脱出などを経て、
白竜峡。
確かに、あれが竜に見える!
黒部峡谷には、素晴らしすぎる滝が多くて、
いちいち、キレイだなぁーなんて感心してるので、
時間がいくらあっても足りないくらい。
登山道に突如現れる、滝行を越えて、身体の左半分で水を受け止めた後には、
たのしみにしていた、十字峡!
今まで一緒に歩いてきた、鷲羽岳を水源とした黒部川、
鹿島槍ヶ岳などの後立山連峰を水源とした流れ、
剱岳や真砂岳からの流れ、
が集まる、交差点。
揺れ具合が途方もなく怖い、たった一人しか渡れない吊橋。
足元を、ものすごい勢いで透き通る水が流れていく。
うっかり吸い込まれそう…!
これが半月峡かな。
半月板に不安を抱えるふたりは、
無敵の半月板を必死に祈願。
調子のいいお願いごとだね。
でも、どうか半月板が暴れ出しませんように。
十字峡からS字峡までの間は、
めくるめく美しい水の流れ。
この透き通る青の連続に、怖さも忘れて、ただただ楽しい!
やがて登山道は仙人谷ダムへ。
ここまで、秘境感満載のトレイルだったので、
人工の建物に、なんだかほっと安堵を覚える。
変な感じ。
ダムの放水路の先に、すごい勢いで流れ落ちる、黒部川。
どうしてこんなことになってるの?
登山道は、仙人谷ダムの施設内へと続く。
こんな登山道はじめて!
興奮しながら、ダムの施設内をずんずん歩く。
高熱の岩盤を掘削して建設された、その名も高熱隧道。
思ったよりも暑くなかったけど、
建設当時はどれだけこの熱に苦しめられたのだろう。
先人の苦労に想いを馳せてみる。
施設内には、関係者が乗る、関西電力黒部専用鉄道が張り巡らされていて、
電車待ちの職員さんや、作業中の作業員さんたちが、挨拶をしてくれる。
深い深い山の中に突然現れた、小さな街のような存在に、
違和感を感じつつも、
人の暮らしが近くに感じられて、ほっとしたひととき。
仙人谷ダムや、関電宿舎を過ぎると、道は突然の急登に。
疲れ切った身体に、まさかの仕打ち!
胸突き八丁どころじゃなくて、鼻だってこすりそうだよ!
なんて、あまりの辛さに思わず笑っちゃう。
「ひどい仕打ち坂」と名付けてみた。
それで、せっかく登ったのに、
宿泊地の阿曽原温泉小屋へは、また、がしがしと下りなきゃいけないなんて、
ほんとに、ひどい仕打ち。
最後の、この急な登り下り。
断崖絶壁を歩き続けてすり減った心と、
水平な道に慣れきった身体には過酷な試練だったな。
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続きはまた明日。
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阿曽原温泉小屋では、到着した登山者に、
後続に人はどれくらいいたのか、
どんな様子だったか、
など、入念に聞き取りをして、予約のお客さんの到着を徹底的に待っています。
この日も、暗くなってしまっても到着しない方々を、
小屋の救助スタッフが探しに行って、連れて帰ってきていました。
下ノ廊下、とっても素敵な景観です。
でも、確実に体力が必要なルートです。
到着しない人がいると、小屋の方々や他の登山者も心配したり、
自分の身を危険にさらして、捜索されている現状を目の当たりにして、
なんだか考えさせられました。
どうか、みんなが少しずつ気を引き締めて、安全に下ノ廊下を楽しめますように。