秋纏う、下ノ廊下へ①

下ノ廊下へ。

黒部峡谷をぐんぐんと下る、全長約30kmもの断崖絶壁ロングルート。

去年は、ついに開通しなかったので、2年越しの夢の実現。

とはいえ、ビビりのあたしには、歩き通せるのか、

どきどきとわくわくのせめぎあい…

下ノ廊下2016

今年の山の上の紅葉は、渋かったので、あまり期待していなかったのだけど、

出発地の扇沢へ向かう車内で見たのは、色鮮やかな紅葉。

下ノ廊下、期待できるかも…!!!

と、喜び勇んで、いざ出発。

下ノ廊下2016

トロリーバスで黒部ダムへ向かい、

歩き出ししばらくは、なんてことない登山道。

深い谷に、朝の光が届いたのは、だいぶ経ってから。

見上げると、秋の色を纏って染まる紅葉と青空。

文句のつけようのない紅葉と快晴に、

ずっと待ち望んだ甲斐があったねー。としみじみ。

下ノ廊下2016

やがて道は、岩をくりぬいて作られた、断崖絶壁ルートへ。

ねぇ、そんなことしてたら落ちちゃうよー!

ふざけてポーズをとる友は全然平気な顔で、

写真を撮るあたしはへっぴり腰。

スリングでチェストハーネスを作って、

怖いところは徹底的に確保しながら歩く。

写真を撮る時にも大活躍。

ビビりはビビリなりに、念を入れるもの。

下ノ廊下2016

下ノ廊下2016

下ノ廊下2016

ひたすら、断崖絶壁の道を。

高いところは、川との落差は100mほどもあるのだそう。

あたしたちのちっちゃさが、際立つほどの、雄大な景色。

足が竦んで歩けなかったらどうしよう…

なんて不安は、壮大な景観に圧倒されて、吹っ飛んだ。

下ノ廊下2016

高巻きの梯子や、ささやかな渡渉や、沢からのロープを使った脱出などを経て、

白竜峡。

確かに、あれが竜に見える!

黒部峡谷には、素晴らしすぎる滝が多くて、

いちいち、キレイだなぁーなんて感心してるので、

時間がいくらあっても足りないくらい。

下ノ廊下2016

登山道に突如現れる、滝行を越えて、身体の左半分で水を受け止めた後には、

たのしみにしていた、十字峡!

今まで一緒に歩いてきた、鷲羽岳を水源とした黒部川、

鹿島槍ヶ岳などの後立山連峰を水源とした流れ、

剱岳や真砂岳からの流れ、

が集まる、交差点。

下ノ廊下2016

揺れ具合が途方もなく怖い、たった一人しか渡れない吊橋。

足元を、ものすごい勢いで透き通る水が流れていく。

うっかり吸い込まれそう…!

下ノ廊下2016

これが半月峡かな。

半月板に不安を抱えるふたりは、

無敵の半月板を必死に祈願。

調子のいいお願いごとだね。

でも、どうか半月板が暴れ出しませんように。

下ノ廊下2016

十字峡からS字峡までの間は、

めくるめく美しい水の流れ。

この透き通る青の連続に、怖さも忘れて、ただただ楽しい!

下ノ廊下2016

やがて登山道は仙人谷ダムへ。

ここまで、秘境感満載のトレイルだったので、

人工の建物に、なんだかほっと安堵を覚える。

変な感じ。

ダムの放水路の先に、すごい勢いで流れ落ちる、黒部川。

どうしてこんなことになってるの?

下ノ廊下2016

登山道は、仙人谷ダムの施設内へと続く。

こんな登山道はじめて!

興奮しながら、ダムの施設内をずんずん歩く。

下ノ廊下2016

高熱の岩盤を掘削して建設された、その名も高熱隧道。

思ったよりも暑くなかったけど、

建設当時はどれだけこの熱に苦しめられたのだろう。

先人の苦労に想いを馳せてみる。

施設内には、関係者が乗る、関西電力黒部専用鉄道が張り巡らされていて、

電車待ちの職員さんや、作業中の作業員さんたちが、挨拶をしてくれる。

深い深い山の中に突然現れた、小さな街のような存在に、

違和感を感じつつも、

人の暮らしが近くに感じられて、ほっとしたひととき。

下ノ廊下2016

仙人谷ダムや、関電宿舎を過ぎると、道は突然の急登に。

疲れ切った身体に、まさかの仕打ち!

胸突き八丁どころじゃなくて、鼻だってこすりそうだよ!

なんて、あまりの辛さに思わず笑っちゃう。

「ひどい仕打ち坂」と名付けてみた。

それで、せっかく登ったのに、

宿泊地の阿曽原温泉小屋へは、また、がしがしと下りなきゃいけないなんて、

ほんとに、ひどい仕打ち。

最後の、この急な登り下り。

断崖絶壁を歩き続けてすり減った心と、

水平な道に慣れきった身体には過酷な試練だったな。

*

続きはまた明日。

*

*

阿曽原温泉小屋では、到着した登山者に、

後続に人はどれくらいいたのか、

どんな様子だったか、

など、入念に聞き取りをして、予約のお客さんの到着を徹底的に待っています。

この日も、暗くなってしまっても到着しない方々を、

小屋の救助スタッフが探しに行って、連れて帰ってきていました。

下ノ廊下、とっても素敵な景観です。

でも、確実に体力が必要なルートです。

到着しない人がいると、小屋の方々や他の登山者も心配したり、

自分の身を危険にさらして、捜索されている現状を目の当たりにして、

なんだか考えさせられました。

どうか、みんなが少しずつ気を引き締めて、安全に下ノ廊下を楽しめますように。